甲府地方裁判所 昭和25年(行)41号 判決
原告 芦川村村長
被告 芦川村選挙管理委員会
一、主 文
被告芦川村選挙管理委員会が昭和二十五年十一月十七日なした村長選挙期日指定告示の無効確認を求める部分につき、原告の請求を棄却し、右告示の取消を求める部分につき、本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、まず「被告芦川村選挙管理委員会が昭和二十五年十一月十七日芦選告示第三十九号を以つてなした芦川村村長選挙の期日を同年十二月八日と定める旨の告示の無効であることを確認する。」との判決を、次に予備的に「右告示を取り消す。」との判決を求め、その請求の原因として陳述した事実の要旨は次のとおりである。
「一、原告は山梨縣東八代郡芦川村村長であるが、被告同村選挙管理委員会は昭和二十五年十一月十七日芦選告示第三十九号を以つて芦川村村長選挙の期日を同年十二月八日と定める旨の告示をした。
二、被告が右のような告示をなしたのは、同年十一月五日芦川村村議会が、解散後初めて招集された議会において、村長たる原告の不信任議決をしたことにより、原告が村長たる職を失つたということを理由とするものであるが、そのような不信任議決は存在しないものである。
すなわち原告は昭和二十五年十一月一日同村告示第十六号を以つて同月五日午前九時芦川村々議会(議員定数十六名)を同村役場に招集する旨の告示をした。然るに、右招集期日たる十一月五日午前九時に定足数の議員の出席がなかつたので、同日午後四時三十分頃各議員に対し更に同日午後六時半村議会を招集する旨の通知をなし、村議会の再度招集を行つたところ、同日午後六時三十分出席議員は五名に過ぎなかつたので、地方自治法第百十三條但書に基き右五名で会議を開き、必要な議事を終了して、同日午後七時三十分頃閉会した。
ところが原告の招集した村議会が閉会した後、同日午後九時頃同村々議会議員渡辺亘外十名の議員が村役場に参集して村議会と称して会議を開き、渡辺亘を議長に選挙した上、原告に対する不信任議決をしたものであつて、右議決は原告の招集した村議会の会議においてなされたものでなく、芦川村議会の議決として成立していないのである。
三、從つて原告はいまだ村長たるの職を失つていないのにも拘らず被告が前示のように芦川村々長選挙の期日を昭和二十五年十二月八日と定める旨の告示をしたのは、全くその基礎を欠く不適法の行爲であり、右告示は無効であるから、原告は村長としてその確認を求める利益があるものである。
四、仮に被告のなした右告示が無効でないとしても、右告示には次のような違法があつて、取消を免れない。
(1) 被告芦川村選挙管理委員会が村長選挙期日を定める告示をするには公職選挙法第百十一條第一項第三号によつて同村々長の職務を代理する同村助役から、同村々長の欠けた旨の通知を受けた後であることを必要とするのに、被告は右通知を待たずに本件告示をなしたもので、右告示は違法である。
(2) 被告が村長の選挙を行う場合においては公職選挙法第百二十條第一項の規定に從い、選挙を行うべき事由の生じた日から三日以内にその旨を縣選挙管理委員会に届け出なければならないのに、その届出をなさないで右告示をしたのであつて、この点よりするも本件告示は違法である。
よつて原告は予備的に右各違法を理由として、被告のなした前記告示の取消を求めるものである。」と述べ、「仮に被告がその主張のように十一月十五日頃縣選挙管理委員会に村長の選挙を行う旨の届出をしたものとしても、右は法定の期間を徒過してなされたものであるから、無効のものである。なお選挙管理委員会の選挙期日を定める旨の告示は独立した行政処分であつて、本訴はその効力を爭うものであるから、選挙爭訟の範疇に属せず、通常の行政訴訟として、当裁判所の管轄に属するものである。」と附陳した。(立証省略)
被告訴訟代理人は、先ず本案前の抗弁として、「本訴は公職選挙法で規定された選挙爭訟に属するものであつて、当裁判所には管轄権がないから、これを管轄裁判所たる東京高等裁判所に移送する旨の決定を求める。」と述べ、本案につき、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告の主張する事実中、原告が芦川村々長であつたこと、被告が昭和二十五年十一月五日芦川村々議会において、村長たる原告の不信任を議決したことに基き同月十七日芦選告示第三十九号を以つて芦川村々長の選挙期日を同年十一月八日と定める旨の告示をしたこと、原告が同年十一月一日、同月五日午前九時に村議会を村役場に招集する旨の告示をし、同月五日に各議員に対し同日午後六時半村議会を招集する旨の通知をしたこと、同村議会の議員の定員が十六名であること、村議会議員渡辺亘外十名の議員が十一月五日会議を開き渡辺亘を議長に選挙し、原告の不信任議決をしたこと及び被告が前記告示をなすに当り村助役より村長の欠けた旨の通知を受けなかつたことは認めるが、その他の事実は否認する。被告は本件告示をなすに当り、同年十一月十五日頃縣選挙管理委員会に村長の選挙を行う旨の届出をしているのである。
原告は村議会議員渡辺亘外十名が村議会の議決としてなした原告の不信任議決を存在しないものであるというが、原告が十一月五日に各議員に対してなした同日午後六時半村議会を招集する旨の通知は、十一月一日の告示により招集された議会への議員出席の督促に過ぎず、原告の主張するような再度招集ではないから、右督促に從い、十一月五日渡辺亘外十名の議員が出席して会議を開き、議長渡辺亘の下に、出席議員十一名全員の賛成を得て原告の不信任議決をしたもので、右議決は有効に存在するものである。從つて右不信任議決に基いてなした被告の前記告示は無効のものでない。
又原告は、本件告示の取消を求める理由として、被告が村長代理助役から村長の欠けた旨の通知を待たずに告示をしたことをもつて違法であるというが、村長代理助役がその通知を故意に怠つている場合、被告は独自の権限で知り得た事実に基いて、選挙の告示をなし得るものであるから違法の廉はない。」と述べた。(立証省略)
三、理 由
一、まず本訴と高等裁判所の專属管轄に属する選挙爭訟との関係について考えてみなければならぬ。又原告は被告選挙管理委員会のなした選挙期日の告示の効力を爭つているのであるが、選挙期日の告示は選挙という一連の手続ないし集合的行爲の一部をなすものであつて、かゝる選挙手続を構成する各行爲の一つを取り上げその違法を主張してその効力を爭う訴訟が許されるかどうかも問題とされるのである。そこで公職選挙法第十五章、特に同法第二百二條、第二百三條、第二百五條の各規定によつてこれを見るのに、同法の定めるいわゆる選挙爭訟とは、選挙手続がこれに関する法規の定めに違反し、選挙の結果に異動を及ぼす虞れのある場合に限り、選挙の公正を確保するという公益的見地から、いわゆる民衆爭訟として、廣く一般選挙人及び公職の候補者に対して、当該選挙の日から所定の期間内に、その選挙の無効宣言を求める訴訟を提起し得る権能を與えたものであつて、そこに問題とされる法規違反は、多く選挙の管理執行に関するものであることが窺われる。
然るに本訴のうち村長不信任議決の存在しないことを理由として、村長選挙期日を定める告示の無効確認を求める部分について考えるのに、原告は芦川村々長の職にあるものとして、被告選挙管理委員会が芦川村村長の選挙期日を告示したことに対し、かゝる告示は公の機関の立場で原告の村長たる地位を否定するものであるばかりでなく右告示によつて選挙の施行された曉には自己の地位に有形無形の損害を蒙ることを予想して自己の権利を保護するために右告示の効力を爭うものであり、かの民衆爭訟におけるように一般公益的及び行政監督的見地に立つて、選挙の効力を爭うものでない。加之若し不信任議決が存在しないということになれば、選挙告示はその基礎を失い、選挙の施行は全く徒労に帰するわけであるから、選挙の公正な運営を目標とし、從つてその施行を前提とする前示選挙爭訟の性格にかんがみれば、本訴の如き、必ずしも選挙爭訟の範疇に属するものとは云えない。当該選挙施行の後に、これと同一の理由を以て選挙爭訟を提起し、選挙の効力を爭い得るか否かは別問題として、選挙の結果を見るを待たず選挙爭訟に非ざる別個の行政訴訟を提起するということも考えられる。而うしてここに訴訟の対象となつている選挙期日を定める告示なるものは、一連の選挙手続の一部を成す行爲であつて、独立した行政処分と云えるかどうかは疑問があるにせよ、少くとも一個の行政行爲として、上來述べるが如くその有効無効を決定する法律上の利益がある限り、それは法律上の爭訟と云い得るものである。しかも原告の主張するとおりの事実関係であるとすれば、被告委員会が右告示に從つて施行する選挙はその前提ないし基礎を欠くものであり、かゝる選挙が無効であることは選挙の施行を待つまでもなく明らかであつて、その結果に異動を及ぼす虞れのあるとかないとかいうことは無意味である。このように選挙の管理執行の問題でなく、選挙を行うべき前提ないし、基礎を問題としている場合には、一つの手続又は集合的行爲としての選挙の全過程の終了を待つて、選挙の効力を爭うような迂遠の方法を避けて、云わば選挙の開始行爲ともいうべき選挙期日の告示のみを取り上げて、訴訟の対象となし得るものと解せられる。このように考えると本訴は選挙爭訟に属しない、別個の公法上の権利関係に関する爭訟として、適法であり、且つ当裁判所の管轄に属するものであると解するのが相当である。
二、そこで果して被告選挙管理委員会のなした選挙期日を定める告示が無効であるかどうかについて、考えるのに、原告は右告示無効の理由として芦川村議会議員渡辺亘外十名が昭和二十五年十一月五日村議会の議決としてなした原告を再び不信任する旨の議決が存在しないことを挙げている。
ところで、原告が昭和二十五年十一月一日芦川村告示第十六号を以つて同月五日午前九時芦川村議会を同村役場に招集する旨の告示をなし、更に同月五日定員十六名の各議員に対し同日午後六時半村議会を招集する旨の通知をしたことは当事者間に爭なく、原告は右の各議員に対する招集の通知は村議会の再度招集であると主張し被告はこれを爭つているのであるが、証人渡辺亘、宮川雅義、野沢市郎、市川国治、市川角平、霜村丑太郎、霜村甲子保、飯高林の各証言及び証人宮川政朝の証言と原告本人尋問の結果の各一部を併せ考えると、同村々議会議員である渡辺亘、宮川雅義、野沢市郎、市川国治、霜村丑太郎、霜村甲子保、飯高林等が右招集通知を受領したのはいずれも十一月五日午後六時半から七時頃迄の間であり、しかも右芦川村においては、地方自治法が施行されて始めての村議会の招集には告示の方法がとられたのみであつたが、その後村長と議会側との申し合せにより、議会の招集に告示のみでは各議員に徹底を欠く嫌いがあるので、更にこれを各議員に対し通知するということになり、その後の慣例として村議会の招集はその都度これを各議員に通知するという方式がとられていたので、本件の場合においても、大部分の議員は当初前記十一月一日の招集の告示を知らずに居り、右招集通知によつて始めて村議会招集の事実を了知したこと、從つて告示による招集期日たる十一月五日午前九時にはわずかに二、三人の議員が村役場に参集したに過ぎずその人々も間もなく帰つてしまつたこと、なお從前、同村々議会の慣例として、招集時刻どおりに会議が開かれたこともあるが、又午前の時刻を指定してなされた招集にもかゝわらず午後遅くになつてようやく開会の運びになつた例もあることが認められ、証人宮川政朝、霜村泰公、町田豊子の各証言及び原告本人尋問の結果並びに右各証人の証言によつて成立を認め得る甲第一乃至第三号証中右認定と矛盾する部分は信用できず、その他右認定を左右する証拠はない。かゝる事実関係の下においては、たまたま定刻近く少数の議員が参集、帰宅した事実があつたからとて、今回に限りこれを以て招集された議会が会議を開くことができず終つたと見ることは妥当でなく、その後に行われた通知は再度招集と見るよりも被告の主張するように、前記告示によつて招集された議会への議員の出席を督促する意味合いの通知であると解しなくてはならぬ。
尤も原告本人尋問の結果により成立を認める甲第六、第七号証及び証人宮川政朝の証言、原告本人尋問の結果によれば、同年十一月三日同村代理收入役たる渡辺八百重が辞職し、又十一月五日正午頃、村長たる原告宛てに、山梨縣土木部長等二十名から成る甲府大宮路線改修視察団の一行が十一月六日芦川村に來村の上、一泊する旨の通知が届いた事実が認められるが、かゝる事実は前記招集の告示後に、而も前記認定のように、右招集によつて議会が開会される以前に生じた事柄であつてみれば、これらの事件はやがて開会さるべき当該議会に付議すれば足り、強いて議会の再度招集をしなければならなかつた場合とも認められぬのである。
然らば原告本人尋問の結果により成立を認める甲第五号証及び証人宮川政朝の証言、原告本人尋問の結果によつて、十一月五日午後六時半同村議会議員五名の出席の下に会議を開き、同七時三十分閉会した事実が認められるとしても、これは地方自治法第百十三條但書に規定されている村議会の定足数を欠くも会議を開き得る場合には属しないものであつて、村議会の会議として定足数を欠き、成立していないものといわざるを得ないのである。
而うして証人渡辺亘の証言により成立を認める乙第二号証、並びに証人渡辺亘、宮川雅義の各証言によれば、前敍のように村議会への出席を督促する通知に接してはじめて招集の事実を知つた渡辺亘等十一名の議員は、大凡十一月五日午後七時半頃迄には村役場に参集し、議会招集のことに関し原告と押し問答を重ねた後、同日午後十時三十分頃、解散後最初に招集された議会であつたので、最年長議員宮川雅義が臨時議長となつて開会を宣し、議長副議長の選挙が行われ、議長渡辺亘によつて議事が進められ、その際霜村丑太郎議員の緊急動議が成立し、同人の提出した村長たる原告の不信任議決案に全員が賛成し、ここに原告に対する再度の不信任議決が成立したことが認められるのであつて、右再度の不信任議決は、村長の招集により開かれた定員十六名中の三分の二以上である十一名の議員の出席した村議会で、その全員の賛成を得て成立したもので、村議会の議決として有効に存在しているものというべきである。
果して然らば十一月五日の渡辺亘を議長とする十一名の村議会議員による原告の不信任議決が存在しないことを前提とし、被告のなした選挙期日の告示は無効であるとする原告の主張は理由はなく、原告の請求はこの範囲において棄却を免れないのである。
三、次に本訴のうち右選挙期日を定める告示取消を求める部分について判断する。
原告が右告示の取消原因として主張するところは、被告選挙管理委員会が村長の欠けた場合の選挙としてその職務を代理する者から村長の欠けた旨の通知を受けることなしに選挙期日の告示をなし、又村長の選挙を行う場合としてその事由を生じた日から三日以内にその旨を都道府縣選挙管理委員会に届け出でなかつたから、公職選挙法第百十一條第一項第三号及び同法第百二十條第一項に違背しているというのであり、なお原告は依然芦川村々長たるの職にあるものとして、被告委員会が村長の欠けたことを理由に芦川村長の選挙期日の告示をしたことに対しその取消を求めているもので、原告の請求の趣旨とするところは要するに告示無効確認の請求の場合と同じく村長たるの地位にあるものとしての原告の権利の保護を求めるもので選挙の効力を爭わんとするものでないから通常の行政訴訟として当裁判所の管轄に属するものとして取扱つて差支えないものと解すべく、進んで原告の主張のような事由を以つてその告示の適否を爭うことが許されるかについて審究するに、かゝる原告の主張する事由はいずれも選挙の管理執行の規定に関するものであり、かゝる選挙の管理執行の規定に関する違反は直ちに当該手続の無効或いは取消原因となるものではなく、選挙の終了後、それが選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に、はじめて選挙爭訟として当該選挙の効力を爭うべきであり、かゝる違法を理由として、選挙の手続を構成する一部の行爲たる選挙期日の告示のみを取り上げて、その取消を求めることは許されないと解すべきである。このことは選挙については、選挙爭訟として必ず異議訴願の手続の経由を要することとし、出訴期間や管轄裁判所につき特別の定めをしているのであつて、選挙の手続上の瑕疵はすべて選挙の施行後、その瑕疵を理由に選挙の効力を爭うことによつてのみその解決を図ることが法の建前であると解せられることからも明らかである。從つて選挙の管理執行に関する手続違反を理由に、その手続を構成する各行爲の一つ一つを取り上げてこれを独立の取消訴訟の対象とすることは、不適法であつて、本件訴はこの範囲において、これを却下すべきものである。
よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九十五條、第八十九條を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 入山実 石田実 宮沢邦夫)